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2008年

05月19日

(月曜日)

医者のブログと医療崩壊  一番損をするのはだれ?

まぁもうみんな知ってるから書きますけど、僕、医者です。

で、やっぱり最近医者のブログでは
これについて書かないわけにはいかんなぁという雰囲気があるのですね。
最近巻き込まれたからというのもあるけど。

さて、医者の間では最近の訴訟ブームとトンデモ判決に対してブーイングの嵐です。
まぁぶっちゃけた話が、医者が理解不能の理由で訴訟を受ける。
ミスがあったとしても、誰もがやりかねない事でびっくりするような額を請求され、それが通っちゃう。
結果が重大だと、(死亡とかね)過失がなくても「期待権侵害」とか言ってしまう。

で、僕がどうかっていうと、ちょっと医者も落ち着けって感じですね。
正直、他の分野でもおんなじだと思うんです。

この国の司法が、「素人が玄人を裁く」という構造を持っている以上、絶対にこういうことは起こる。
さらに、ミスがあってそれが死につながったのなら、請求を受けなければいけない。
ミスがあったかどうかは司法が指摘するべきで、医師はその助け(鑑定とかね)をする。

司法はそれでいいのですよ。司法は。独立しているんだから。

問題はこの国の医療はどんどん衰退するということですね。

これは単純に経済学と、心理の問題なんですよ。
正直ね、医者の資格があれば、儲からないまでも、危ない仕事なしで何とかやっていける。
救急とか、一生しないって誓ったら、やらなくたって食っていける。
お産も、新生児も、小児科も、やらないならそれで構わない。
でね、もう一つ言えば、実はそういう仕事のほうが給料良かったりする。
開業して、9時5時で業務終了。時々夜間診療所や休日診療所に応援に行く。
その方がお金が儲かったりする。儲からなくてつぶれても、仕事に困ったりはしない。

で、救急の現状を見る。やりがいはある。とかく、命を救う仕事はとても誇らしい。
一生懸命やる。
でも、ミスはある。人間だから。神様じゃないから。
で、ちょっとのミスがたちまち重大な結果を招く。
そこで訴訟ですよ。

訴訟はね、傷つく。プライドも傷つくけど、そんなちんけなもんじゃない、
もっともっと奥の方がね。

ま、考えてごらんよ。
商談する。顧客のために全力を尽くす。
少しのミスで顧客に被害が及ぶ。顧客から非難轟々。訴えられる。
やる気なくすよね。
加えて場合によっては逮捕される。

正しいことだとは思うよ。テキトーな仕事をする医者に鉄槌を下すのは。
結果責任論だって単独で考えればべつに正しくないとは思わない。

じゃその社員、次にどうなるか。
「ミスをしなように頑張る」? そうかな?
ミスって頑張ったらなくなるの? 
社会人だったらわかるでしょ?
ミスは必ず起こる。でも、医者はその結果が重大すぎる。

患者のために頑張る。全力でやる。でも、要求される能力は神様級。

どうする?

善意の人はこう考える。
「自分には救急医療をやる能力がない。情けないが、社会に害悪を広げるよりもこの場を去ろう」
普通の人はこう考える。
「冗談じゃないよ。患者が亡くなっただけでもとてもつらいのに、その家族に訴えられる。患者が好きだ。家族も好きだ。だからすべてを捧げている。だからこそ、その人たちから非難されると、もう辛すぎて立っていられない」

そう。今僕は無意識にそう書いたけど、「立っていられない」のだ。
残念だけど人間は、やりがいそのものから殴られて立っていられるほど強くない。

悪意の人は?
悪意の人ははじめから救急医療はやらない。

結果どうなるか。
リスクの高い医療から手を引く。
神様みたいな人か、神様ぐらい自信のある人しか残らない。

他の人たちはみんな逃げて、
逃げた先で十分に満足できるお金をもらって、自分の人生を生きている

医者ブログではみんな怒っているけど、みんないい人だなと思う。
自分よりもこの国を憂いているのだから。
僕は違う。
怒らない。

僕は良い医者ではないから、ハッキリ言う。

べつに構わないじゃない。この国の医療がどうなっても。
知ったことじゃないじゃない。困るのは僕じゃない。
みんなで手をつないで医療崩壊へ落ちていきたいんだから、見守ればいいじゃない。

一番困るのはだれなのか。

怒っている医者は、良い人ですよ。
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